1.存続的(sustaining)イノベーション vs 破滅的(disruptive)イノベーション
(1)イノベーションに関する伝統的見解(「技術泥流」説など)への批判としてのクリステンセンのイノベーション論
クリステンセン(伊豆原弓訳)『イノベーションのジレンマ』翔泳社,2001では、sustaining innvationが持続的イノベーション、disruputive innovationが破壊的イノベーションと訳されているが、この訳語は誤解を招きやすい。すなわち、持続的イノベーションという訳語は「製品や製造に関わる技術が持続的であるようなイノベーション」というような意味に、破壊的イノベーションという訳語は「製品や製造に関わる技術が従来とまったく異なっており、旧技術を破壊するようなイノベーション」というような意味に誤解されやすい。すなわち、sustaining innovationとincremental innovationは同じものと受け取り、「従来と同じような技術に基づくイノベーションが持続的イノベーションである」とするような誤解がなされることになる。
こうした誤解の源泉は、sustainingやdisruputiveという形容詞が「製品や製造の基礎となる技術」に対する修飾語であるとする理解にある。しかしそうした理解は誤っている。クリステンセン自身はsustainingとdisruputiveという形容詞を、技術に関わる形容詞ではなく、市場における既存有力企業の存続・非存続(破滅)に関わる形容詞として用いているのである。
従来の技術とは断絶した抜本的イノベーションだからといって、それが有力企業の存続を脅かすような破滅的イノベーションになるとは限らない
クリステンセンは、イノベーションに関するそれまでの有力な見解 --- 「主力企業が過去の成功体験に縛られると、従来のものとは根本的に異なる技術に基づくイノベーション(radical innovation)の波に乗り遅れることになる。その結果として企業の存続が危うくなることがある。」とか、「伝統ある有力企業は伝統の結果として内部組織が官僚的=保守的になっていることが多い。自社の既存技術に自信過剰であったり、保守的体質が強すぎたり、リスクを犯すことに消極的すぎると、次々と起こる技術革新の波についていけず、その結果として企業の存続が危うくなることがある。」といった見解 ---- を批判している。
抜本的イノベーションであれ連続的イノベーションであれ、そのイノベーションが存続的イノベーションである限り、イノベーションの波に乗り遅れて後発者となっても問題となることは少ない。逆に、技術的はにたやすい連続的イノベーションであっても、それが破滅的イノベーションであった場合にはイノベーションへの出遅れは企業の存亡に関わる重大な問題となる。
同一のValue Network内にあるイノベーションである限りは、それが抜本的イノベーションであろうとも、何らかの対抗手段は存在する場合が多い。例えば、HDDの読み取りヘッドに関するフェライトヘッド技術から薄膜ヘッド技術への抜本的イノベーションの場合には、下図に示されているように、古い技術であるフェライトヘッド技術でも、新しい技術である薄膜ヘッド技術と同様に記録密度の性能向上を図ることができた。それゆえ薄膜ヘッド技術への対応が遅れても致命的な問題になることはなかった。
ただしここで注意しなければならないのは、クリステンセンのこうした主張は、抜本的イノベーションを実現する技術に関わる基本特許が一社によって独占されてはいないか、あるいはそうした技術に基づく部品が一社のみに独占的に提供されることはないといった場合にしか当てはまらない、ということである。
事実とは反するが、仮に薄膜ヘッドやMRヘッドを製造する技術が特許権等によってある一社のみに独占され、他のHDDメーカーが薄膜ヘッドやMRヘッドを利用できなかった場合にはクリステンセンの主張のようにはならない。同一のValue Networkの中でのイノベーションであっても、企業の存続を脅かすようなイノベーションとなってしまう。
マイクロプロセッサー技術という抜本的イノベーションの場合を例に取ると、世界最初のマイクロプロセッサー4004を発明したインテル社やビジコン社が特許権申請をせず、特許権等による技術の囲い込みをしなかったために、マイクロプロセッサー技術という抜本的イノベーションに出遅れた他社も市場参入を果たせたのである。もしそうでなければ、マイクロプロセッサー市場は最初からインテル社による独占的な市場になっていた可能性がある。そのことは、インテル社がPentiumプロセッサーに関わる技術を知的所有権によって囲い込み、他社にPentium互換CPUを発売させない結果として、現在のパソコン用マイクロプロセッサー市場がインテル社による寡占的状態になっていることを考えてみればよくわかるであろう。
このようにクリステンセンの主張は、あくまでも知的所有権による技術の囲い込みがない場合にのみしか当てはまらない。そうでない場合には出遅れは企業の存亡に関わる重要な問題となるのである。
[出典]クリステンセン(伊豆原弓訳)『イノベーションのジレンマ ---- 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社,2001,p.37
イノベーションが従来の技術の延長線上のものかどうかは、イノベーションへの対応の成功や失敗に関わる重要な要因ではない
クリステンセンによれば、 「従来の技術体系の延長線上でなされた連続的な技術革新」(incremental innovation)であるのか、それとも「従来の技術体系とは根本的に異なっており不連続な抜本的変化をともなう技術革新」(radical innovation)であるのかというイノベーションの技術的性格は、主力企業がイノベーションに対応可能かどうかにまったく関係しない。それまでの技術蓄積がうまく生かせる連続的な技術革新であるのか、それとも、それまでの技術蓄積がまったく役に立たず新規に一から技術開発のやり直しを必要とするような抜本的な技術革新であるのかはイノベーションへの対応の成功・失敗に関する決定的な要因ではないのである。
あるイノベーションの技術的内容が簡単なものであったとしても主力企業の存続を脅かすことがありうる。すなわちイノベーションが従来の技術の延長線上のものであり技術的にはほとんど新しい内容を持っていないにも関わらず、世界有数の有力企業がイノベーションに対応できず失敗することがありうる。
またその逆に、イノベーションの達成が技術的に極めて困難であり、自社のそれまでのコア技術とは異質で根本的に異なる技術に基づくものであった場合に高い確率で失敗するというわけでもない。多くの場合、主力企業はそうしたイノベーションに関してリーダーシップを発揮し、先行技術に取って代わる次世代技術の開発者になることが多い、とクリステンセンは主張している。それまでの技術体系とは断絶した抜本的な技術革新であっったからといって、そうした技術の開発に伝統的な主力企業が失敗する確率が高いわけではない。
(2) イノベーションに関する二つの分類軸
----「企業の継続性」と「技術的内容の継続性」という二つの分類軸 ----
クリステンセンは、「イノベーションが従来の技術の延長線上のものなのか?、それとも従来の技術とは根本的に異なるまったく新しい技術に基づくものなのか?」という<技術的連続性の有無に関わる問題>と、「イノベーションが主力企業の存続に対して肯定的な効果を持つのか?、否定的な効果をもつのか?」という<企業の存続・非存続に関わる問題>とはまったく異なる別の問題であるとしている。
技術的連続性の有無という分類軸は、従来からの伝統的な分類軸である。その分類軸によりイノベーションは、従来的技術の延長線上にある連続的イノベーション(incremental innovation)と、従来的技術とは断絶した急進的イノベーション(radical innovation)の二つに分類される。
企業の存続・非存続という分類軸はクリステンセン独自の問題意識に対応した分類軸である。クリステンセンは、この分類軸に対応してイノベーションを、主力企業がイノベーションの対応に成功し生き残り続ける存続的イノベーション(sustaining innovation)と、主力企業がイノベーションの対応に失敗し破滅的結果を招く破滅的イノベーション(disruptive innovation)の二つに分類している。すなわち、イノベーション後にそれまでの伝統的支配企業が生き残るイノベーションが存続的イノベーションであり、伝統的支配企業が没落しそのイノベーションを起こした新興の企業が支配権を獲得するようになるイノベーションが破滅的イノベーションである。
「ディスク・ドライブの歴史にみられる技術革新について調べるうちに、技術革新には二通りあり、それぞれが大手企業に対してまったく異なる影響を与えてきたことがわかってきた。一つは、主に記憶容量と記録密度によって測られる性能の向上を持続する技術で、漸進的な改良から抜本的なイノベーションまで多岐にわたる。業界の主力企業は、常に率先してこのような技術の開発と採用を進めてきた。もう一つの技術革新は、性能の軌跡を破壊し、塗りかえるもので、幾度となく業界の主力企業を失敗に導いてきた。」クリステンセン(伊豆原弓訳)『イノベーションのジレンマ ---- 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社,2001,p.35
クリステンセンのイノベーション論の独自性は、このように技術的連続性の問題と、企業の存続・非存続をまったく別次元の内容の問題として捉えている点にある。
(3) クリステンセンの逆説的テーゼ 「すぐれた経営が有力企業を没落させる」「顧客重視の経営・市場重視の経営が企業を失敗に導く」
--- Value Network論という組織論的アプローチに基づくクリステンセンのイノベーション論----
クリステンセンは、有力企業における「すぐれた経営こそが、業界リーダーの座を失った最大の理由である」(クリステンセン『イノベーションのパラドクス』p.5)と考えている。クリステンセンによれば、「顧客の意見に耳を傾け、顧客が求める製品を増産し、改良するために新技術に積極的に投資する」ことや、「市場の動向を注意深く調査し、システマティツクに最も収益率の高そうなイノベーションに対して適切な投資配分する」ことなどといった優れた経営をおこなうことができる組織であればあるほど、市場構造を大きく変えるような破滅的イノベーションに失敗することが多いのである。
このようにクリステンセンは、ある企業が新しいイノベーションにうまく対応できるのかどうかということを、技術的内容の次元の問題ではなく、技術をマネジメントする企業組織のあり方という次元の問題として捉えている。すなわち、企業がイノベーションにうまく対応できるかという問題は、どのような技術システムに企業組織が最適化されているのかという組織論的な問題であると考えている。
技術的連続性の有無を基準とする分類
(伝統的なイノベーション分類)
抜本的イノベーション
(radical innovation) |
以前の技術と非連続的で
断絶的変化 |
漸進的イノベーション
(incremental innovation) |
以前の技術と連続的で
漸進的変化 |
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イノベーションによる企業の存続・非存続を基準とする分類
(クリステンセン独自のイノベーション分類)
破滅的イノベーション
(disruptive innovation) |
業界の主力業界が何度となく
存続に失敗 |
存続的イノベーション
(sustaining innovation) |
業界の主力企業は率先して取り組み
存続に成功 |
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sustaining innovationとdisruptive innovationの訳語に関する注
クリステンセン(伊豆原弓訳,2001)『イノベーションのジレンマ ---- 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社では、disruptive innovationが「破壊的イノベーション」、sustaining innovationが「持続的イノベーション」と訳されているが、この訳語は適切ではない。
クリステンセンは、disruptive innovationでは既存の有力企業が存続できず「破滅」に追いやられる確率が高いという意味でdisruptiveという形容詞を用いているのであるから、本稿では「既存有力企業の存続を危うくし破滅へと導くイノベーション」という意味で「破滅的イノベーション」という訳語を採用している。
またsustaining innovationでは、そのinnovationが先行技術とまったく連続性のない画期的なイノベーション(radical innovation)であったとしても既存有力企業が適切な対応を取り有力企業として「存続」し続ける確率が高いとクリステンセンは考えているのであるから、「既存有力企業の市場における優越的地位をそのまま存続させるイノベーション」という意味で「存続的イノベーション」という訳語をここでは採用している。
なおsustaining innovationの範疇に属するradical innovationにおいて既存有力企業が、それまでのtechnologyとはまったく異なる新しいtechnologyを必要とする場合でも適切な対応をできるのは、既存有力企業の「旧来」的体質、すなわち、既存有力企業の「官僚」的制度にも関わらずではなく、まさにそうした「旧来」的体質=「官僚」的制度ゆえに適切に対応できる、というのがクリステンセンの主張の逆説的でおもしろい点である。
言い換えればクリステンセンは、既存有力企業の「旧来」的体質=「官僚」的制度によって適切な対応が可能なinnovationをsustaining innovationとして定義している。そしてクリステンセンにとって、既存有力企業の「旧来」的体質=「官僚」的制度とは既存有力企業のvalue networkの体現である。既存有力企業の「旧来」的体質=「官僚」的制度とは、合理的マネジメントによってresource配分や業務orocessを既存有力企業のvalue networkに最適な形で編成したものであり、そうしたvalue networkに対応するものである限り、incremental innovationでもradical innovationでも適切に対応できるのである。
そしてこうした点に関して、クリステンセンはアッターバックと異なっている。アッターバックは「既存有力企業は「旧来」的体質=「官僚」的制度ゆえにradical innovationによって乗り越えられようとしている古いtechnologyにしがみつき、radical innovationに適切に対応できない」と考えている。
アッターバックは「既存有力企業が既存Technologyにしがみつく傾向が強い」と考えているのに対して、クリステンセンは「既存有力企業は既存value networkにがしがみついているのであり、既存Technologyにしがみついているのではない。」と考えているのである。
(4)イノベーションのタイプ分類
イノベーションは、<イノベーションの技術的性格>(技術的連続性の有無)と、<企業におけるイノベーションへの対応可能性>(企業の存続・非存続)という二つの基準により下記の4つのタイプに分類できる。
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| 先行の有力企業も成功 ← → 先行の有力企業が失敗 |
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| 存続的イノベーション
(sustaining innovation)
対応可能なイノベーション |
破滅的イノベーション
(disruptive innovation)
対応困難なイノベーション |
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抜本的イノベーション
(radical innovation)
従来の技術と抜本的に
異なる不連続な
技術革新 |
[HDDの読み取りヘッドに関するイノベーション]
HDDのフェライトヘッド技術→薄膜ヘッド技術
HDDの薄膜ヘッド技術→MRヘッド技術
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ケーブル式掘削機→油圧式掘削機
メインフレーム技術→ミニコン技術
ミニコン技術→デスクトップ・パソコン技術
ガソリン自動車技術→電気自動車技術
高炉技術→ミニミル技術(電炉技術)
コピーセンター向け普通紙コピー機技術
→小型卓上コピー機技術
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漸進的イノベーション
(incremental innovation)
従来的技術の延長線上
にある改良型の
技術革新
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[HDDのアーキテクチャに関するイノベーション]
14inchHDD→8inchHDD
8inchHDD→5.25inchHDD
5.25inchHDD→3.5inchHDD
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上記の図の黄色の部分がクリステンセン独自の主張を反映した部分である。すなわち、従来的技術の改良型ではなく従来的技術とは断絶した抜本的イノベーションであるにも関わらず先行有力企業がリーダーシップをとり続ける存続的イノベーションとなる部分(左上のセル)と、従来的技術の改良型の技術革新である漸進的イノベーションであるにも関わらず先行有力企業がリーダーシップを取るのに失敗する破滅的イノベーションとなる部分(右下のセル)の二つである。
2.上位市場と下位市場・・・破滅的イノベーションは社会的成長の糧を下位市場でかせぐ
破滅的イノベーションは自らの成長に適した市場を新規に「発見」または「創造」する必要がある
破滅的イノベーションはその誕生期においては上位市場で通用するほどの性能をもたないことが多い。そのため破滅的イノベーションは自らの再生産のための社会的認知や、自らの改良=改善を目的とした連続的イノベーションの持続に必要な資金を「稼ぐ」ための市場をどこかで「発見」する必要がある。
既存技術は上位市場により適応するための連続的イノベーションの結果として、下位市場での技術競争力を低下させる
破滅的イノベーションは一般には既存技術よりもコスト競争力が高い。その一方で上位市場で主流となっている既存技術は、上位市場への「適応」を高めれば高めるほど、それによって製造される製品に高い利益率が要求する。そのため既存技術は、上位市場に対応するための連続的イノベーションを持続すればするほど、確保可能な利益率が小さい下位市場におけるコスト競争力を低下させる。
コスト競争力の高い破滅的イノベーションは下位市場における既存技術との競争を通じてS字カーブ的に自らの技術的競争力を高める
その結果として、そうした既存技術に比べて相対的にコスト競争力の高い破滅的イノベーションは、まず下位市場で既存技術との競争を開始することになる。下位市場での既存技術との競争を通じて、操作性の改善、性能改良、信頼性の向上などを目的とした連続的イノベーションをおこなうことで、破滅的イノベーションは上位市場でも既存技術と対抗できるだけの技術的競争力を身につけることになる。
[出典]Christensen,Clayton M.(1st 1997,Revised 2000)The innovator's dilemma,Harper Business,p.xix
クリステンセン(伊豆原弓訳)『イノベーションのジレンマ ---- 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社,2001,p.10,訳語は一部変更してある。
3.Value Network・・・技術管理に関わる組織ネットワークに関するパラダイム論的理解
(1)組織の能力は組織の無能力をも意味している・・・組織ネットワークと技術システムの「一対一」的対応
クリステンセンによれば、技術システムを管理する組織ネットワークをネットワークたらしめているものがValue Networkである。すなわち、Value Networkという一群の価値意識によって組織ネットワークは支配されている。そのため、あるValue Networkに適さないイノベーションは組織的に排除され、実現されない。特に組織ネットワークが能力の高いマネージャーによって合理的に管理されていればいるほど、新しい破滅的イノベーションが組織内の個人から提案されたとしても、そのValue Networkと矛盾する限り受け入れられないことになる。
クリステンセンによれば、破滅的技術が既存企業で最初に開発されることも多いが、マーケティング部門や主要顧客の反対によって既存企業はそうした破滅的技術への技術投資を継続しないという決定を下すのである。[クリステンセン『イノベーションのジレンマ』翔泳社,p.76]
技術システムの管理に最適化された組織的ネットワークは、異なるValue Networkによって最適に管理可能な技術システムの管理には失敗する。すなわち次世代の破滅的イノベーションは、既存の主流のValue Networkによって成功の見込みがないとされるイノベーションの中から登場することになる。
このようにクリステンセンの理論的前提は、ある技術システムを合理的に管理可能な組織的ネットワークは一つに限られるというものである。一つの組織ネットワークが、二つの異なるValue Networkに適した技術システムを同時に管理することはできないのである。
クリステンセンのValue Network理論は、クーンのパラダイム論と極めて似た論理構造を持っている。異なるValue Networkは互いに共約不可能なのである。その両者の対応関係は図式的には下記のように露わすことができる。
クーンの
パラダイム論 |
パラダイム |
科学革命
(異なるパラダイムへの
非連続的=非累積的発展) |
通常科学
(同一パラダイムの中での
連続的=累積的発展) |
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↑
↓ |
↑
↓ |
↑
↓ |
クリステンセンの
Value Network論 |
Value Network |
破滅的イノベーション |
存続的イノベーション |
Value Networkを構成するもの
Value Networkは、文字通りの意味ではValue(価値)が織りなす Network的構造のことである。下図における「企業経営情報システム」といった製品の場合であれば、企業が大量のデータを取り扱うためにコンピュータ大きな<記憶容量>を必要とするし、業務処理のスピードアップのためにコンピュータに大きな<処理速度>を必要とするし、企業の業務に使うのであるからどんな場合でもシステムがダウンすることのない<信頼性>が求められる。すなわち、<記憶容量><処理速度><信頼性>という三つが、「企業経営情報システム」という製品に対応するValue Networkを構成する基本的なValue(価値)を構成している。
Value Networkは、顧客−販売業者−メーカー企業−部品納入業者という複数の企業によって構成されている
下図に示されているValue Networkの構成例に示されているように、クリステンセンの主張するValue Networkという概念は、単に一企業の内部構造が織りなすNetworkだけでなく、企業と企業、企業と消費者が織りなすNetworkも含むものである。
そのようにある特定の企業が顧客など企業外部との間で最適化されたNetworkを組んでいることが、存続的イノベーションに対する企業の成功と、破滅的イノベーションに対する企業の失敗という二つの事柄を規定しているのである。
クリステンセンの基本的発想・・・「企業の組織構造やグループは担当製品に対して最適化されている」
企業の組織構造(営業、研究、製品開発、人事管理など企業が必要とする各種機能をどのような形で様々な組織に担わせているのかという組織の編成構造)、および、そうした各種の組織を構成しているグループは、その組織の担当製品と適合的な形で構成されている。したがってその担当製品と同種のValue Networkで対応できるものに対してはその組織力をうまく発揮するが、それまでの担当製品と異なるValue Networkを必要とする場合には逆に組織的な抵抗・妨害・サポタージュなどをおこなうことになる。