キルビー特許(Jack S. Kilby's license)
----
半導体集積回路(IC)の回路構成に関する最も基本的な特許 -----
キルビー特許とは?
ジャック・S・キルビー(Jack St. Claire Kilby 1923〜)が1958年に考案したIC(集積回路)の基本特許。キルビーはこの特許を初めとした集積回路の発明への貢献により2000年にノーベル物理学賞を受賞した。
キルビーはその特許に関わる発明をした当時、アメリカの大手半導体メーカーのテキサス・インスツルメンツ(Texas Instruments、Inc.)の技術者であったので、特許権はテキサス・インスツルメンツが所有しており、多額の特許使用料を得ている。アメリカでは1959年に出願され、1964年に特許として認められた(
Patent No. 3,138,743
)。これに対し、日本では1960年に特許申請されたが、特許として認められたれたのは1989年と遅れた。
1959年に出願されたもともとのキルビー特許自体は1980年代初頭に失効したが、テキサス・インスツルメンツは、その特許の関連技術を「キルビー275特許」として改めて出願して認められ、その後も日本など各国の半導体メーカーから多額の特許料収入を得ている。日本企業が払った特許料の総額は数千億円にもなると言われている。例えば東芝が支払った金額について言えば、テキサス・インスツルメンツ社は日本での特許が認められた後の1991年に東芝とキルビー特許を基本として半導体に関する包括的な特許契約をしたが、その契約では東芝が年間百数十億円を10年間にわたって支払うことになっている。なお日本では富士通だけが、「キルビー275特許に抵触しない半導体の製造技術を採用している」としてテキサス・インスツルメンツから要求された莫大な特許料の支払いを拒否し、TIの特許権を侵害していないことを確認するための訴訟を東京地裁に対して1991年に起こし、2000年4月には富士通の主張を最高裁が全面的に認める判決を下している。
1958年にテキサス・インスツルメンツ社に入社したキルビーは、「入社して日が浅かったので、夏季休暇の権利がなく、会社が休業状態のときに実験をおこなった」と言われている。キルビーは、抵抗、トランジスター、コンデンサーなどの部品を1個ずつハンダで取り付けて電気回路を構成するのではなく、それらの部品が果たす機能を全部まとめて一緒に一つの電気回路として製造する研究を行っていた。キルビーが集積回路のアイデアを得たのは、そのころであった。(なお同じ時期に、ロバート・ノイスが、フェアチャイルド社の同僚らとともに同じような集積回路を開発していた。それゆえ集積回路技術も、同時発明であると考えられている。)
キルビーの発明とほぼ同時期に、フェアチャイルド社(the Fairchild Semiconductor Corporation)のロバート・ノイス(Robert Noyce)も「プレーナー特許」と呼ばれるICに関わる発明[
a silicon based integrated circuit.U.S. patent No. 2,981,877
]をおこなっている。ただし特許出願は、ノイスの方が半年ほど遅れた。キルビーとノイスのどちらがICの基本特許であるかをめぐって裁判が何年にもわたっておこなわれたが、現在では両者をあわせてICの基本特許とされている。
ICに関するキルビー特許とプレーナー特許という二つの基本特許をもとにした技術改良により、回路パターンの露光、エッチング、不純物の拡散などの工程を一枚の基板上で集中してできるようになり、回路の小型化・量産化が可能になった。ICは改良がすすむにつれてどんどん小さくなり、極めて多くのトランジスタを小さな面積の中に詰め込むことができるようになった。小型化とともに、小さな消費電力で極めて高速に大量のデータ処理が可能になった。
キルビーが作ったIC(半導体集積回路)
キルビーが基本特許を獲得するもととなったIC(半導体集積回路)は、下図に見るように、ICと言っても、現在のICと比べるとかなり原始的なものであった。トランジスタ間の接続も実際にワイヤで配線されており、このままでは現代のICのように大量生産は不可能であった。ICの大量生産のためには、ノイスのプレーナー特許が不可欠であった。
[上の図の出典]
http://www.ti.com/corp/graphics/press/image/on_line/co1034.jpg
Kirby特許における図
[出典]
Kirby特許(U.S. Patent No. 3,138,743)
キルビー特許"Miniaturized Eectronic Circuits"
GoogleのPatent Searchにおけるキルビー特許
United States Patent and Trademark OfficeのPatent No.3,138,743
キルビー関連のWebページ
「ジャック・キルビー」『EDN Japan flashback』2002年4月号
http://www.ednjapan.com/ednj/2002/200204/flashback0204.htm
キルビーの写真および彼の特許に関わる発明の歴史的背景に関するわかりやすい説明がある。
キルビー氏の日本来日講演,2000年9月28日
http://www.watch.impress.co.jp/pc/docs/article/20000928/ti.htm
キルビー特許発明当時の顔写真や最初のICの概観の写真、および、講演の様子のmpegファイルなどを見ることができる。
Texas Instruments社の中のKirby関連Webページ
http://www.ti.com/corp/docs/kilbyctr/jackstclair.shtml
近藤英一(山梨大学)「ノーベル物理学賞は、米ロの3氏に」
http://shingen.ccn.yamanashi.ac.jp/~kondoh/nobel_kilby.html
キルビーが2000年度ノーベル物理学賞を受賞したことに関連して書かれた、キルビー特許の意味についての辛口のコメント
井桁貞一「キルビー特許訴訟の思い出」
井桁貞一氏は、伊東国際特許事務所 顧問・弁理士、電気通信大学 客員教授である。